★5,6歳~小学初級~大人 『夕あかりの国』 徳間書店 文アストリッド・リンドグレーン 絵マリット・テルンクヴィスト


夕あかりの国 アストリッド・リンドグレーン/文 マリット・テルンクヴィスト/絵 石井登志子/訳   徳間書店


★1999年刊   定価1760円  48㌻  24×18㌢  ハードカバー製本  表紙カバーあり(出品画像は、反射光を避けるため、表紙カバーを外して撮影してあります)


『夕あかりの国』は、『長くつ下のピッピ』で知られるアストリッド・リンドグレーンの短編を絵本にしたもの。絵を担当したのは、母親がリンドグレーン作品の翻訳に携わっていた関係で、子どもの頃から彼女にかわいがられたという、マリット・テルンクヴィストです。
 舞台はスウェーデンの首都ストックホルム。描かれている野外博物館も王宮も、実在する場所です。家に帰るときに二人が上空から見下ろす町の風景も、テルンクヴィストによれば、「実際に見てから描きたかったから、アストリッドと一緒に気球に乗ったの…着陸のときにすごく揺れて、一緒に死にそうになったわ!」ということで、画家がその目で見たものが描かれているためか、確かな存在感があります。男の子の微妙な表情の変化もきちんとえられているし、全体に夕暮れのあかね色に染まった画面が続くなか、水辺に立つリリョンクバストさんの家を訪ねる場面だけが、日の光に輝く美しい緑の色なのも、とても効果的です。男の子は、「ここに釣りをしにきていいよ」と言ってもらうのです。
 リンドグレーンというと、「ピッピ」や「やかまし村」のような、明るくて元気のいい物語が一番に思い浮かびますが、一方で、この『夕あかりの国』や『赤い鳥の国へ』など、つらい状況にいる子どもにそっと寄り添う作品も、忘れられません。『ミオよわたしのミオ』の初めの部分で、養子として意地悪な両親に引き取られ寂しい思いをしている少年が、暗い秋の夕暮れに一人公園でまわりの明るい窓をながめ、「あそこには幸せな子どもとお父さんとお母さんがいる」と想像する場面を、ちょうどその子と同じ年頃に読んで、泣きたくなったことを覚えています。
 リンドグレーンはあるとき、見知らぬ女性から「つらかった子ども時代を明るくしてくれてありがとう」という手紙をもらい、「つらい思いでいる子どもが明るい気持ちになってくれたのなら、それに勝る満足はない」と語っています。「子どもの本の女王」と呼ばれた作家の、つらい境遇の子に寄り添う気持ちがしみじみと伝わってくる、心に残る一冊です。        

★同梱可能の際は、同梱発送いたしております。